「木」のある「暮らし」(竹内 伸文・秋田森の会・会報32号)


 先日、秋田市雄和の住宅街の一角にあるオークハウスという、英国流アフタヌーンティーが楽しめる喫茶店を訪ねた。ログハウス造りで天井の高い、気持ちのいい空間で、本格的な紅茶やスコーン(焼き菓子)を味わい、至福の時を過ごした。秋田でこの様な時間が過ごせることは驚きであったが、それに加えて驚かされたのが、その土地の空気の新鮮さである。隆々と木々が立ち並び、鳥のさえずりがきこえる。深呼吸するたびに、心と体にエネルギーが充たされていく。懐かしい感覚が蘇る。
 二年前に帰郷するまで、英国ウェールズ地方の首都であるカーデイフ(人口約三〇万人‥秋田市とほぼ同じ)に二年半ほど暮らしていた。力−ディ フは、歴史的な町並みが保存された緑豊かな美しい町である。町の中心を流れるタフ川沿いは公園となっており、全長約三・二キロにも及んでいる。
 公園内の芝生では、ラグビーやフットボールの練習、ピクニックを楽しんだり、遊歩道でジョギングやサイクリングを楽しんだり、と市民の憩いの場となっている。そこには、緑に囲まれた新鮮な空気と安らぎの空間があり、人々の暮らしの一部として一体化している。英国と比べ、日本の「暮らし」で思うことは、日常において「木」を感じる時間が少ないということである。決して緑が少ないわけではないが、何故か日本では、「暮らし」と「木」に距離を感じてしまう。
 その理由を考察する上で、英国で感じた以下の三つの観点が参考になると考える。
 一つは、「空間の共有」 である。
 英国では、空間をうまく共有している。例えば、英国の市街地に多く見られる連棟式住居では、各棟それぞれに裏庭があり、そこでティータイムやバーベキューなどを楽しんだりする。
 それぞれの敷居は低く、自分の庭だけでなく広い範囲の緑を見渡せるように設計されている。また、郊外においても、私有地、公有地に関わらず、フットパスと呼ばれ、誰でも自由に散歩ができる。
 次は、「田園都市の発想」 である。
 英国は、都市計画のレベルで、自然と人間の調和・を重要視している。エペネザー・ハワードの提唱した、自律した職住近接を前提とした緑豊かなコンパクトな田園都市が各地に存在し、都市拡大を抑制するための 「グリーンベルト」 という緑地帯も多く見られる。
 最後は、「くつろぎの実践」 である。
 アフタヌーンティーに代表されるように、一日に何度も紅茶の時間を設け、くつろぎの時間を楽しむ習慣がある。日常的には、高級ティーセットなどは使わずに、マグカップにティーパ ックなどで、気軽にゆとりの時間を楽しむ。
 高緯度の英国では、短い夏の貴重な日差しを待ちわび、多くの人々が芝生に寝ころび、日光浴を楽しむ。気取らずに実践する姿勢も、実を重視する英国らしいところかもしれない。
 暮らしと木の距離を近づける上で、ハード (インフラ) だけでなく、ハート(気持ち)が大切だと考える。緑が身近にあることだけでなく、それを活用する気持ちが大切である。
 まずは実践してみよう。近所に芝生があったら寝ころび、日差しを浴びてみよう。森の中で大きく深呼吸してみよう。実践の先に、自分なりのくつろぎのスタイルが見えてくるのではないだろうか。(SING代表 秋田市)


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